本記事の内容
脳の発達時期である子供の時から音楽をしていないといけないのか?
モーツァルトは幼い頃からピアノを弾き、作曲をしていたことで有名です。
しかし、もしその幼い時に音楽の練習を始めていなかったら、彼の将来は今語り継がれるように素晴らしいものになっていたでしょうか?
視覚や言語の習得と同じように、脳が音楽の刺激を受けやすい「適性な時期」があり、その時期に音楽のスキルを身につけないと本来の能力を発揮できないのではないか?
この点についてはさまざまな議論がありましたが、スウェーデンのプロの音楽家と双子を対象とした大規模な研究で、音楽スキルを身につけられる「音楽適性期」のような時期など存在しないということが明らかになりました。
子供の時から音楽経験あり VS 圧倒的練習量
カロリンスカ研究所のLaura Wesseldijk氏らが調査した310人の音楽家は、全員がプロとして活動しているか、音楽大学の学生でした。
年齢は27歳から54歳で、2歳から18歳の間に音楽のトレーニングを始めていました。
参加者は、いつそのトレーニングを始めたか、18歳までと大人になってから、週に何時間音楽の練習をしていたかを報告しました。
音楽的適性は、音程、メロディ、リズムを識別する能力をオンラインテストで測定しました。
また、作曲した作品や演奏した作品の数、ラジオやテレビでの録音、音楽賞の受賞歴など、自分の音楽的業績についても報告してもらいました。
双子のデータは、スウェーデンの双子登録簿から得られたものです。双子のうち、4,814人が同じ音楽弁別テストを受け、4,887人が音楽的達成度(作曲やアマチュア演奏、受賞歴など)に関する情報を提供していました。
その結果、プロでも双子でも、8歳以前に音楽のトレーニングを始めた人のほうが、音楽的適性が高く、達成度も高いことがわかりました。
しかし、生涯の総練習時間を考慮すると、音楽的適性との関連性だけが残り、それも限定的なものになりました。
若いうちに練習を始めると、リズムではなく音程を識別する能力が高くなることがわかりました。
(これは、7歳までに音楽トレーニングを受けた子どもは、それ以降にトレーニングを始めた子どもに比べて、リズムではなくメロディのテストで良い結果を出したという最近の研究結果と一致します。)
さらに、双子のデータを詳しく調べてみると(例えば、音楽トレーニングを始めた年齢が異なる一卵性双生児のペアや、一卵性双生児と非一卵性双生児のデータなど)、トレーニングの開始時期が早いほど成績が良いという関連性は、共通の遺伝的・環境的要因によって完全に説明できることがわかったのです。
つまり、幼少期に音楽のトレーニングを始めた子供が後になってうまくいく傾向があることを説明するために、「適性期」を持ち出す必要はないのです。
代わりに、早くから授業を始めて後になってテストの成績が良くなった音楽家(プロ・アマを問わず)は、両親から「音楽的」な遺伝子を受け継いでいることや、家庭で音楽的な環境で育ったことが功を奏したのかもしれません。
両親は、子供たちの音楽的才能を見抜き、育てることができたのかもしれません。
また、そのような子供たちには、より若いうちから授業を受けさせることで、生涯の練習時間を増やすことができたのかもしれません。
しかし、今回の結果は、「幼少期の練習が、その後のパフォーマンスや業績に特定の因果関係をもたらすという直接的な裏付けはほとんどない」と研究者たちは結論づけています。
子供時代に経験ありだから上手いのではなく、単に練習量が多いだけでは?
他の分野(特にスポーツ)でも、幼少期のトレーニングが後のパフォーマンスを最大化するための重要な時期であることが示されています。
早期開始にメリットがあるとした研究の中には、生涯の総練習時間を考慮していないものもあると、研究者たちは指摘しています。
2017年に行われたスポーツ選手を対象としたある研究では、メダルを獲得した選手は、メダルを獲得していない選手に比べて、メインのスポーツに特化した時期がかなり遅かったという結果も出ています。(ただし、他のスポーツへの参加期間は長かったそう)
音楽の分野でも、早く始めることが後のパフォーマンス向上につながることは明らかです。
まとめ
ポイント
・子供の時から音楽をしていないとプロになれないは嘘
・子供時代に音楽経験ありの人は、単に練習量が多い
・とにかく練習あるのみ